離婚コラム
強度の精神病
1.民法770条1項4号と同条2項の関係
民法770条1項4号に、法定離婚理由として「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が揚げられています。
「強度の精神病」とは、婚姻の本質である夫婦の相互協力義務が十分に果たし得ない程度に達している場合とされています。
また、「回復の見込みがない」ことも要件とされていますので、その判断の前提として一定期間の継続的治療が必要とされています。
とはいえ、本人の責任ではないところで、重度の精神疾患を患い、回復の見込みがないからと言い、一方的に離婚されるというのは、本人にとっても酷なことが多いため、様々な事情を考慮し、離婚を認めるべきではない場合、裁判所は、離婚の請求を棄却するとできるとされています(同条2項)。
最高裁は、「民法770条1項4号と同条2項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかった一事をもって直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、直ちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである」としています(昭和45年11月24日判決、昭和33年7月25日判決)。
2.具体例
①離婚請求が認められた事例
妻が強度の精神病にかかり回復の見込みがない場合であり、かつ、妻の実家が療養費に困るような状況にはなく、他方で、夫は、生活に余裕がないにもかかわらず、妻のために過去の療養費を分割払いで全て支払い、かつ将来においても可能な範囲で支払いをなす意思を示し、夫婦間の子も出生当時から引き続き養育している事情がある場合、民法770条2項により離婚の請求を棄却すべき場合に当たらないとして、離婚の請求が認められました。
②離婚請求が認められなかった事例
妻が強度の精神病に罹患しており、発病以来既に約20年を経過しており、長期間の入退院を繰り返し、回復の見込みがない場合であるため、民法770条1項4号には該当するが、夫の妻に対する厳しい態度が病気の再発に相当程度関与していること、夫は妻の扶養、治療についてもっぱら妻の実家に任せきりにして、むしろ、性急に妻との離婚を求める態度であったこと、夫は十分な資産と収入があるのに扶養について応分の負担をすることを拒否しているなどの事情のもとにおいては、妻の将来につき具体的方途は必ずしも十分講じられていないとして、諸般の事情を総合勘案し、婚姻を継続させるのが相当とし、民法770条2項が適用され、離婚請求が棄却されまた。
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