モラハラを理由に離婚できる? 慰謝料請求に必要な証拠と進め方を解説
慰謝料配偶者から繰り返し人格を否定される、長期間にわたって無視される、交友関係や支出を細かく管理される。こうした状況が続いているものの、暴力を受けているわけではないため、問題として扱ってよいのか判断がつかないというご相談があります。
身体的な暴力と異なり、モラルハラスメントは外形的な傷が残りません。そのため、本人が状況を客観的に捉えにくく、周囲にも伝わりにくいという特徴があります。
この記事では、モラハラが離婚原因として認められる条件、慰謝料の考え方、立証のために何を記録しておくべきか、手続きの進め方について整理します。
目次
モラハラとはどのような行為を指すか
モラルハラスメントは、法律上の定義が定められた用語ではありません。一般には、言葉や態度によって相手の人格を傷つけ、精神的な苦痛を与える行為を指します。
典型的に見られる言動
- 人格を否定する発言を繰り返す(能力がない、価値がないなど)
- 長期間にわたって口をきかない、存在を無視する
- 交友関係や外出を細かく制限する
- 生活費を渡さない、支出を逐一報告させる
- 子どもの前で一方の親を侮辱する
- 舌打ちや物に当たるなど、威圧的な態度をとる
- 何を言っても自分に非があるという結論に持ち込む
本人が自覚しにくい理由
モラハラの特徴として、加害者側に悪意の自覚がない場合が多いという点があります。しつけや指導のつもりで行われていることもあり、言われた側も自分に落ち度があると受け止めてしまいます。
また、外では穏やかに振る舞い、家庭内でのみ態度が変わるという形をとることもあります。周囲に相談しても理解されにくく、孤立を深めやすい構造があります。
長期間その環境に置かれると、何が通常の夫婦関係なのかが分からなくなっていきます。違和感を覚えた段階で、第三者に状況を伝えてみることには意味があります。
離婚原因として認められるか
民法770条1項は、裁判で離婚が認められる事由を五つ定めています。モラハラはこのうち五号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが問われます。
判断されるのは関係が破綻しているか
裁判所が確認するのは、モラハラという行為があったかどうかだけではありません。その結果として、婚姻関係が修復の見込みのない状態に至っているかどうかです。
そのため、一度や二度の言い争いでは足りず、継続性と程度が問われることになります。どのくらいの期間、どの程度の頻度で、どのような言動があったのかを具体的に示していくことになります。
考慮されやすい事情
| 事情 | 評価の方向 |
|---|---|
| 言動が長期間にわたり継続している | 破綻を認める方向に働く |
| 心身に不調が生じ、通院している | 苦痛の程度を示す資料となる |
| 子どもの前で行われていた | 子への影響も含めて評価される |
| 別居している | 関係の修復が難しいことを示す |
| 関係修復を試みたが応じなかった | 改善の見込みがないと評価されやすい |
別居期間の長さも要素のひとつです。明確な年数の基準はありませんが、期間が長くなるほど破綻が認められやすくなる傾向があります。
慰謝料の考え方
モラハラが不法行為にあたると認められる場合、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。
金額に影響する要素
- 言動の内容と、それが継続した期間
- 婚姻期間の長さ
- 精神的な不調が生じ、治療を受けているか
- 子どもへの影響があったか
- 離婚に至ったかどうか
不貞行為のように事実関係が比較的明確な類型と比べると、モラハラは行為の程度を数値化しにくく、認められる金額にも幅が出ます。
診断書などの客観的な資料がある場合には、苦痛の程度を具体的に示せるため、交渉においても根拠を持たせやすくなります。
財産分与とは別のもの
慰謝料は、婚姻中に築いた財産を分ける財産分与とは性質が異なります。両方を請求することができ、それぞれ別に算定されます。
協議の場面では、財産分与の額を上乗せすることで慰謝料も含めて解決するという形がとられることもあります。その場合でも、何に対する支払いなのかを書面上明確にしておくことが望まれます。
立証のために記録しておきたいこと
モラハラは痕跡が残りにくいため、記録の積み重ねが重要になります。相手が事実を否定した場合に、こちらの説明を裏づける材料となります。
日々の記録
日付、時刻、場所、具体的な発言内容、その時の状況を記しておきます。後からまとめて書き起こすよりも、その都度残したほうが内容が具体的になります。
手帳やノートのほか、スマートフォンのメモ、自分宛てのメールといった形でも構いません。日付が自動的に記録される方法であれば、後から作成したものではないことを示しやすくなります。
音声の記録
自分が会話に参加している場面での録音は、証拠として用いることができます。スマートフォンの録音機能で足ります。
ただし、録音しようとして会話を誘導すると、不自然さが残ることがあります。日常のやり取りをそのまま記録するほうが、実態を示す資料になります。
メッセージの履歴
メッセージアプリやメールでのやり取りは、文面がそのまま残るため有力な資料となります。
ただし、削除される可能性があります。画面を撮影する、別の場所に保存するといった形で控えを残しておくことが望まれます。
医療機関の記録
不眠や食欲の低下、気分の落ち込みといった症状が出ている場合には、医療機関を受診されることをお勧めします。
受診の際、症状の背景について医師に伝えておくことで、診断書の記載に反映されることがあります。治療の記録は、苦痛の程度を客観的に示す資料となります。
第三者への相談履歴
友人や親族に相談した際のメッセージ、自治体の相談窓口への相談記録なども、当時の状況を示す材料になります。
資料の保管について
集めた記録が相手に見つかると、削除されたり、関係がさらに悪化したりすることがあります。同居されている場合には、保管場所に配慮が必要です。
クラウド上に保存する、ご自身のメールアドレス宛に送っておく、実家や信頼できる方に預けるといった方法が考えられます。複数の場所に控えを残しておくことで、失われるリスクを下げられます。
進め方の選択肢
まず状況を整理する
離婚を決める前の段階でも、現在の状況が法的にどう評価されるのかを確認しておくことには意味があります。見通しが立つことで、今後の判断がしやすくなります。
記録が十分でない段階であっても、何を残していけばよいかを把握したうえで準備を進めることができます。
別居を検討する
同じ家に住み続けることが難しい場合には、別居という選択があります。別居は離婚の前提ではありませんが、距離を置くことで状況を整理しやすくなります。
別居にあたっては、生活費の確保が課題となります。収入の多い側は少ない側に対して婚姻費用を支払う義務があり、請求した時点以降の分が対象となるのが一般的です。別居を開始したら、速やかに請求の意思を示しておくことになります。
協議から調停へ
相手が離婚に応じる場合には、協議によって条件を定めることができます。応じない場合や話し合いが進まない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停では当事者が同席せず、調停委員を介して進みます。直接のやり取りが難しい関係であっても、手続きを進めることができます。
相手に離婚の意思を伝える時期については、慎重に検討されることをお勧めします。
伝えた後に態度が変わり、記録を残しにくくなることがあります。
必要な資料を確保してから切り出すという進め方も考えられます。
子どもがいる場合
お子さまがいるご家庭では、モラハラの影響が子どもにも及んでいる場合があります。
面前での言動
子どもの前で一方の親を侮辱する、怒鳴るといった行為は、子ども自身への心理的な影響を伴います。児童虐待防止法は、子どもの面前で配偶者に対する暴力が行われることを心理的虐待として位置づけています。
この点は、離婚原因としての評価だけでなく、親権や監護者をどちらとするかの判断においても考慮される要素となります。
子どもを通じた言動
子どもに一方の親の悪口を伝える、子どもを味方につけようとするといった行為が見られることもあります。子どもは板挟みの状態に置かれ、負担を抱えることになります。
こうした状況が続いている場合には、子どもの様子についても記録を残しておくことが考えられます。
親権への影響
親権者を定めるにあたっては、これまでどちらが主に養育してきたか、離婚後の養育環境が整っているかといった点が検討されます。
配偶者に対するモラハラがあったことのみで親権の判断が決まるわけではありませんが、子どもへの関わり方に問題があると認められる場合には、考慮される事情となります。
相手が事実を認めない場合
モラハラの事案では、相手が「そのようなことは言っていない」「大げさに受け取っている」と主張することが少なくありません。
客観的な資料の意味
こうした場合、録音やメッセージの履歴といった客観的な資料が判断の材料となります。記録がなければ、双方の言い分が対立したまま進むことになります。
一方、資料が十分でない場合でも、主張を諦めなければならないわけではありません。医療機関の記録、第三者への相談履歴、生活実態を示す資料などを組み合わせることで、状況を示せる場合があります。
自分の側に非があると言われる場合
相手から、自分にも落ち度があったと指摘されることがあります。長くその環境にいると、実際にそう思い込んでしまうこともあります。
夫婦の間で意見の相違があること自体は、通常起こりうることです。問題となるのは、その伝え方が人格の否定や支配に及んでいるかどうかです。この区別は、ご自身だけで判断するのが難しい部分でもあります。
よくあるご質問
Q. 暴力はありません。それでもモラハラといえますか。
A. 身体的な暴力がなくても、言葉や態度による精神的な苦痛は問題として扱われます。継続性と程度によっては、婚姻を継続し難い重大な事由として評価されます。具体的な言動を伺ったうえで、見通しをお伝えできます。
Q. 録音は相手に無断で行ってもよいのでしょうか。
A. ご自身が会話の当事者である場面での録音は、証拠として用いることができます。一方、相手の持ち物に無断で機器を設置する、ご自身がいない場面の会話を録音するといった方法は、問題が生じる可能性があります。方法に迷われる場合には、行動に移す前にご相談いただければと思います。
Q. 慰謝料はどのくらい認められますか。
A. 言動の内容、継続した期間、婚姻期間、心身への影響などによって変わります。モラハラの事案は行為の程度を数値化しにくく、認められる金額にも幅が出ます。お手元の資料を拝見したうえで、見通しをお伝えすることになります。
Q. 相手が離婚に応じません。
A. 協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。調停でも合意に至らなければ、訴訟によって判断を求めることができます。訴訟では、婚姻関係が破綻していることを示す必要があるため、これまでの経過を整理しておくことが前提となります。
まとめ
モラハラを理由とする離婚と慰謝料について、本記事で整理した内容を振り返ります。
- モラハラに法律上の定義はないが、継続的な人格否定や支配は離婚原因となりうる
- 裁判では、行為の有無だけでなく、関係が破綻しているかどうかが判断される
- 慰謝料は財産分与とは別に請求できるが、程度を数値化しにくく金額に幅が出る
- 痕跡が残りにくいため、日々の記録・録音・メッセージの保存が重要となる
- 心身の不調がある場合、医療機関の記録が苦痛の程度を示す資料となる
- 別居する場合は、婚姻費用の請求を速やかに行っておく
- 離婚の意思を伝える時期は、資料の確保状況を踏まえて検討する
「現在の状況が法的にどう評価されるのか知りたい」「何を記録しておけばよいかわからない」といったご相談を承っております。これまでの経過を伺いながら、進め方をご一緒に検討いたします。
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